back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.09.09リリース

第十九回 <起死回生の内閣を>
 福田首相が九月一日夜九時半の緊急記者会見で退陣を表明した。その前、そのことのニュースが流れている時、一瞬、太田農相の辞任か、とも思ったが、それならば本人が記者会見で言えばいいし、假に首相が更迭という含みで発表するにしても、夜分緊急記者会見というのも妙だ、と考えたが、これはひょっとして福田首相の退陣表明かと思ったら、果して、そうであった。
 その記者会見に先立ち、夕刻、麻生幹事長、町村官房長官を呼び、福田首相は辞意を表明、二人の強い慰留にも拘わらず決意を変えなかったと言う。
 進むときは皆に相談するが、退く時は自分で決める、と福田首相は言ったというが、それにしても夫人にも、側近にも事前の相談もせず、知らせもしなかったと言うのは、よほど固い決意があったからであろうし、又、福田首相の性格の片鱗でもあろうか。
 前の、前の総裁選が始まろうとする頃、ある人の一周忌で福田夫妻に会った時、私の「貴方は総裁選に出ないのですか」、との質問に「私は全然そんな気持ちはありませんよ」との答が笑って返って来た。全く含みのない、素直な言い方で、私は、そのまゝ受け取っていた。
 福田首相は、以前にも、自分は総理になりたいと思ってなったわけではない、といった趣旨のことを度々言っている。確かに昨年の九月の総裁選の出馬は、そういった雰囲気からスタートしたように覚えている。
 福田首相は、もともと政治家となる積りではなく、サラリーマンのコースを歩んでいたが、故福田赳夫氏の後継者と目されていた横手征夫氏が亡くなって、急遽、赳夫氏の後を継ぐこととなったので、政治のどろどろした世界に身を置く年月は短かったのである。
 次官として福田赳夫大蔵大臣に仕えた私は、或る程度赳夫氏の気質も承知している積りであるが、割とサバサバとした性格の人で、あまり、物事に拘るというところはないが、スパッと決めたことは、もう余り変更しないという態度であった。その辺のDNAは、やはり康夫氏に引き継がれているのかな、という気がしてならない。
 父君は、「天の声には時に変な声もある」とか、「昭和元禄」、「狂乱物価」といったような造語の名人でもあったが、康夫氏には、どんな言葉を遺したろうか。
 首相を辞めてから一層生き生きとして活動しているかに見える森喜朗氏は、福田氏を評して「こはだ」の味だ、と言ったと聞く。評して妙と思うものの、こはだを心して味わった大人が政治の世界にも、世間にも、余りに少なかったのは残念であった。
 福田内閣が誕生した時、私は、この内閣は支持率は低いかもしれないが、低空飛行で結構長く安定して飛ぶのではないか、とどこかの雑誌に書いたことがある。
 というのは、派閥を全く無視し、首相の人事権をフルに活用して一本釣りで閣僚を決めた小泉氏と違い、安倍内閣はかなり派閥にウエイトを置いた構成であった、その後を受けた福田氏は、さらに各派閥の重鎮を党の役員、閣僚に起用するという形であったから、清新さには欠けるところはあっても、党内、派内から不平分子が突き上げるというような姿にはならなかった。そこが、安定布陣と評されるところであった。
 小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と怒号して郵政改革その他の政策を断行し、結局、開けてみれば、自民党の強い支持基盤を見事に壊すことになった。
 そして、そのつけは昨年の参議院議員の選挙にも回って来たと言わざるをえなかった。安倍首相にはお気の毒であったが、自公与党が参議院の議席の過半数優位を喪うことになって、衆参のねじれ現象を生じ、法案の成立を著るしく阻碍することになった。
 参議院は解散がなく、おまけに一期六年だから、このねじれ現象は容易なことで解消されるものではない。政局が行き詰まったから、といって衆院を解散し、総選挙をしても、この事態は何ら改善されるものではなく、現在、保持している自公与党で三分の二の衆議院議席を次の総選挙では維持できないと見ているのはマスコミだけではない。そこの危機感もある。
 結局は、もし假に衆議院を解散、総選挙をするとなった場合、総力を盡して何とか勝利を 収め、その余勢をかって、参議院の野党に手をつっ込み、改革クラブのような形で反軍を増やし、何とか与党グループで過半数を占める方策をじわじわと進めて行くしか、手はないのではないか。
 そうなると、総選挙の看板となる首相の顔が大問題となる。
 ネットとアニメで人気があるだけでなく、国民も経済界も食いつく、少しは明るい、前向きな積極政策を掲げて、総選挙を行って、三分の二に近い与党勢力を確保すべきである。
 衆参のねじれ現象は、政治の問題だけではなく、経済の発展への障碍である。このまゝでは、日本は諸外国の信を失い、沈没の危機すらないと言えない。先ず、衆、参両院における与党過半数の態勢を整えなければならない。至上命題である。と思うが、読者諸賢如何に思われるか。
 


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