back 代表理事 相澤英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2016.03.17リリース

第二百三十六回 <一富士二鷹三茄子>
 表記の「ことわざ」については、前にも書いたが、も少し追加してみたかったので、ここに記した。
 手元にあった辞典から転写したものが、次の通りであって、まだまだ他の辞書にも記述があるに違いないが、似たようなものではないか、と思っている。
 以前からこの「ことわざ」には何故か関心があって、その後、多少調べてみた。
 一富士は富士の裾野の大巻狩の夜に曽我の十郎、五郎の兄弟が父の仇、工藤経を討ったので、それを意味していると言う。工藤家は伊豆地方で鎌倉時代に勢力を張っていて、私の母の実家二宮家も縁戚と言われていた。
 すなわち、曽我兄弟の曽祖父伊藤裕隆の孫狩野満江の娘が二宮郷の地頭二宮朝忠に嫁したという。
 私達は子供の頃から三百年以上前に建ったという中那国府村生沢の家の母の実家は良く知っていた。二宮郷は天領で二宮家が代官をしていた、とも聞いていた。
 今月の歌舞伎座は「夜討曽我」がかかっているので、そんなことも思い出していた。
 二鷹は、忠臣蔵の芝居となっている浅野の家紋は丸に違い鷹の羽であるが、私の家の紋も同じ鷹の羽で、ただ珍しいことに丸の外側に五つの環がついている。鎌倉時代、三浦の一族であったと言われている相沢家は源家三代の沒落後、今も実家のある武蔵国高田(現在横浜市港北区)に籠(こも)った。八百年も前である。当初は伊達家の竹に雀の紋所をつけていたが、伊達家が仙台に移封となった時、鷹の羽に改めて、当時相沢の主な家が五つあったのに珍んで五つの環をつけたと言う。紋帳にも見れないような紋である。
 三茄子は、茄子はイガを越えて実がなるというところから、伊賀越えの仇打ち荒木又右衛門のことが浮かんでくる。彼の墓が鳥取市内にあるのも、何かの縁であろう。
 以上、独りごとを並べたが、も少しいろいろ調べて見たい、と思っている。
 
 いちーふじ一富士(名)@高いものや、良いものなどの代表として富士山をまず数えあげることば。A「いちふじ(一富士)二鷹(にたか)三茄子(さんなすび)」の略。*俳諧・文政句帖ー五年(1822)四月「一不二の晴れて立けり初茄子」*狂歌・千とせの門(1847)坤「初夢に一ふじの雪ふりいでて茄子も白なす鷹もましらふ」発音〈標ア〉

 いちふじ二釈迦(にしゃか)三山上(さんさんじょう)大和国(奈良県)の高い山の代表。日本で一番高い山は富士山、大和国では釈迦ヶ岳、次に金峯山(きんぷせん)。金峯山の山上に蔵王権現(ざおうごんげん)がまつってあり、それを参詣するのを山上詣でというところから、「山上」は金峯山をさす。*譬喩尽(1786)一「一富士(いちフジ)二釈迦(ニシャカ)三上山(サンサンジャウ)以上二つ和州高山之所」
 いちふじ二鷹(にたか)三茄子(さんなすび)夢に見ると緑起が良いとされているものを順にならべて文句。初夢についていわれることが多い。*狂歌・巴人集(1784)「初夢 まさに見し一富士二鷹三茄子夢ちがへして貘にくはすな」*譬喩尽(1786)一「一富士二鷹三茄子(イチフジニタカサンナスビ)、三の吉夢」*黄表紙・盧生夢魂其前日(1791)「正月二日のよは、はつ夢といふて、ゆめのせかいの大もの日なり。〈略〉一ふじ、二たか、三なすびはおしきせどをり」補注「狂歌・家つと」に「大ぶくや一富士(いちふじ)釜に鷹のつめ三に茄子(ナスヒ)の茶入めでたや」の例がみられる。語源説(1)本来は駿河の国の諺で、駿河の名物を順に挙げたもの[笈埃随筆・俚言集覧・嬉遊笑覧]。(2)駿河の国の高いものを順に挙げたもので、一に富士、二に足高山、三に初茄子の値段のこととし、徳川家康がいいだした[甲子夜話]。(3)緑起の良い物を順に挙げた(富士は高大、鷹はつかみ取る、茄子は成す)[続五元集]。 (日本国語大辞典「小学館」)
 
   一富士二鷹三茄子
 夢に見ると縁起がよいとされるものの順番。特に新年の初夢について言われる。
 これにはいくつかの説がある。(1)初夢に見て縁起のよいもの。(2)駿河(静岡県中部)の名物をあげたもの。(3)駿河で高いもの(「たか」は足高山、「茄子」は初物の値段)。憶説はいくらでも言えようが、問題はそれぞれの説に根拠とするものがあるかどうかだ。(2)は江戸中・後期の「笈埃随筆」や「嬉遊笑覧」に、(3)は江戸後期の「甲子夜話」にそれぞれ出てくるが、どれも推論の域を出ていない。図像資料に目を向けてみると、江戸時代の特に浮世絵にたくさんある。その多くが絵の題に「初夢」「夢見」と記されている点を考慮すると、(1)が最も有力となる。絵画資料に限った場合、(2)と(3)を裏付ける資料は見当らない。図は明治時代の引札。引札は商品の広告や売出し披露などを書いて配った札で、今で言う広告用のちらしに当る。(以下略)(岩波ことわざ辞典)
   一富士二鷹三茄子   
嬉遊笑覧
 初夢に見るもので、一番縁起がよいのが富士山、二番は鷹、三番は茄子であるということ。▼起こりについて、「富士」は高大、「鷹」はつかみ取る、「茄子」は「成す」に通じるからという説もあるが、秦平の世を築いた徳川家康の居城のあった駿河(静岡県)名物をあげて、それにあやかったものともいう。
 
一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭。
 用例 正月一日の夜に見る夢がいわゆる初夢で、昔からこの初夢に見て縁起のいいものは“一富士、二鷹、三なすび”と決まっていた。どうしてこんなものがめでたい夢のシンボルになったのか、いろいろな説があるが、はっきりしたところはわからない。徳川家康が三河にいたころ、まだ四月だというのに初なすびを売る者がいた。買おうとすると、これがべらぼうに値が高い。そこで、家康が「駿河で高いものは、富士山と愛鷹山だけかと思っていたが、なすびも高いのう」と言ったとか。これがもととなって、大権現さまのふるさとで、“高い”三つのもの、つまり富士と愛鷹の鷹となすびを夢に見るのがめだたいことだと、江戸庶民の間で信じられるようになった。また、もう一つの説では、“一富士、二鷹、三なすび”の由来は「一に富士、二に鷹の羽の打ちちがえ、三に名をなす伊賀の上野に・・・・・」ということで、富士が曾我十郎・五郎兄弟の仇討ち、鷹の羽の打ちちがえは浅野家の紋所で、これは赤穂四十七士の仇討ち、伊賀の上野は荒木又右衛門の仇討ちで、ここはなすびの名産地であった。つまり富士・鷹・なすびの三つは、いずれも念願かなっためでたい仇討ちのシンボルである。
  〈阿刀田高「ことばの博物館」〉
 
 


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