back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.12.22リリース

第二十九回 <「消費者庁を早く」>
 消費者庁設置の法案が国会に提出されているが、最近の報道でも審議が進んでいないというので憂慮している。
 そもそも消費者庁という名称自体何となく適切な気がしない。多分、関係者で議論した挙句にこの名称に落ち着いたのではないかと思うが、それにしても、もっと他の名称はなかったのだろうか。たかが名称と言うなかれ、昔から名は体を現すという。大事なことである。
 昔(昭和四十四年)、私が大蔵省から出向で経済企画庁の官房長になっていた頃、同庁に国民生活局が置かれていた。局長は農水省からの出向で中西一郎君であった。
 経済企画庁の設置法には、国民生活局の所掌事務は次のとおりであった。
    (国民生活局の事務)
 第七条の二 国民生活局においては、左の事務をつかさどる。
一 国民の合理的な生活水準及び生活構造の策定並びに国民生活の安定及び向上に関する基本的な経済政策及び計画の企画立案及び総合調整に関すること。
二 一般消費者の保護に関する基本的な経済政策及び計画の総合調整に関すること。
三 生活環境の整備その他国民の日常生活の改善に関する基本的な経済政策及び計画の総合調整に関すること。
四 物価に関する基本的な政策の企画立案及び総合調整に関すること。
五 長期経済計画に関する関係行政機関の重要な政策及び計画であって、国民生活の安定及び向上並びに物価に関するものの実施に関する総合調整に関すること。
六 国民生活研究所に関すること。
七 公共用水域の水質の保全に関する法律(昭和三十三年法律第百八十一号)の施行に関すること。
    
 わが国に限らないかとも思うが、各省の行政は概ねどちらかと言えば生産者というか供給者サイドの行政であって、消費者、需要者のサイドの配慮が欠けている、ないしは不足していた。
 しかし、需要者側から供給者側に対してその提供する製品あるいはサービスに対して不平不満が多々あっても、それを供給者側に伝え、是正変更を求めることは容易なことではなく、又、仮にその意を伝えることができても是正・変更を実現することは極めて困難であった。
 表現が適切であることを期待するが、いわば一般の行政はテーゼであるのに対して、それに対する行政はいわばアンチ・テーゼであるが、このアンチ・テーゼの行動を一般の行政官庁が併せて行うとすることに無理があり、とかく、いわば、つけたりのような行政として各省内でなおざりにされる嫌いが多かった。
 私から言わせれば、そもそも環境庁自体もそういうアンチ・テーゼを行う役割を担う官庁として創られたのである。
 創設当初その環境庁へ各省から送られて来た人達によって庁の行政が行われたわけであるから、どうしても出身官庁の方を向く姿勢となる。そうなっては、アンチ・テーゼの行政は意図するようには行われ難くなる。官僚は、自分の今おかれているポストに即して充分誠実に与えられた仕事を盡す美点を持っているが、何といっても出向のような形では、将来いずれ故国へ戻らなければならない時のことを考えて行動するようになる。又、それを責めることも気の毒である。
 然し、その点現在は違って来て、環境省がプロパーの人を採用するようになって、以前のように古巣の柵(しがらみ)を負っていないから、思い切って、庁の行政を遂行することが出来るようになったのではないか。
 ただ、折角作られた環境省だが、地球温暖化対策の推進に必要な各省行政の見直しといったような大業をかけることは何だか遠慮して、環境行政の末端でいろいろ詰まらないことを言うようで、情けない気がする。
 例えば、各国立公園に置かれている庁の出張所のごときは呆れて物も言えないような詰まらない規制を連発していた。例えば、私の元の選挙区の大山国立公園の出張所は、大山旅館の屋根を三角に揃えよと言ったり、屋根の色を茶で統一せよと言ったり、しかも、所長が変ると、その指示する色も変るとか(本当かね)地元の旅館街も参って、再三私のところへも陳情に来ていた。まだ、いくつも実例はあるが省略する。
 私は、自民党の行政政策本部の副本部長をしていた時、行革で出先機関の整理が議題となった時に、本部の議員方から一齋に国立公園の出張所廃止の声が挙がったのは、どこでも同じようなことが行われているせいだと思った。
 各省と対立し、各省の行政に干渉するのは嫌だし、面倒だから、端っぽのところで文句をつけているのではないか、と思われるのは環境省としても不本意ではないか。
 本筋に戻る。
 消費庁を作ることは各省にとって、多分迷惑なところもあるから、どうも熱心に協力することにはなれない。各省の中へも消費者行政と考えられる部署があり、それなりに職責を果しているものとは思うが、所詮テーゼの中にとボソッとおかれたようなアンチ・テーゼの存在だから、力を発揮せよと望むことにも無理がある。
 私は、経企庁の勤務でそのことを痛感した。国民生活局の仕事を官房長の立場でいろいろサポートしたが、とくに国民生活センターの創設には、主として大蔵省との折衝で努力し、問題は遺したが、設立に漕ぎつけたし、又、平成二年に長官として再び経企庁で働くことになった時に、その業務拡充に盡力した。
 その後、行革で、国民生活センターを廃止せよというような動きがあった時も、私は、極力反対した。
 私は、消費者・需要者サイドからの行政庁は絶対必要だと思っている。各省庁に置かれていた関連部局は挙げて切り離してそこへ集め、かつ、力ある閣僚を配置したらいいと思う、
 行政も人である。以前、行政管理庁なども実力者が大臣になるか、ならないかで重みがぐっと違って来たし、とても、いわばアンチ・テーゼの官庁だから、各省にいい顔をするような大臣では、何も出来なくなっていた。
 消費者庁が何を重点的にやるかは、これからの検討課題だが、早く設置し、言うなれば昔の目安箱を処理する官庁として各省から怖がられる存在となるようになって欲しいと思う。
 それにしても、この官庁を早く作るべきであると思うが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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