back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2009.03.10リリース

第三十六回 <「かんぽの宿の怪」>
 総建設費二四〇〇億円、固定資産税評価額八五六億円のかんぽの宿七〇件をオリックスに一〇八億円で一括売却することについて、鳩山総務相がたたき売りは問題だし、売却手続きも不審な点ありとして待ったをかけた。結局、日本郵政の西川社長も再考の余地ありとして、オリックスへの売却は白紙とし、改めて検討委員会での議論を基に、かんぽの宿の売却方針を決め、ルールを基に、夏以降再び売却手続きを進めると言明した。
 こういう施設の売却は、かんぽの他にも厚生年金、JR、JT、NTTなど例が少なくないが、いずれも、処分を急ぐあまり、かなり安い価格で売られ、それが転売、再転売をされて、業者に不当な利益を与えているものもあって問題とされていた。
 かんぽの宿についても、例えば、鳥取県岩美町の件のように僅か一万円で売却されたものが六千万円で転売されているケースもあって、いくら何でもひどすぎるではないか、と批判を浴びていた。
 こういう施設の売却に際し、それを単なる不動産とみるか、収益性を重視するかで評価が変わってくる。かんぽの宿も、今回は、現在の従業員も含めて事業経営の承継を前提としての売却であるため、仮に事業の継続などを条件とせず、単に不動産として売却するとなれば、もっと高い価格もつけられる筈である。
 もっとも、とかくこういう公的施設の運営は、純然たる民間の旅館やホテルが収益性をとことん追求する専門家によって運営されているのに較べて、果して合理的な経営ができているか、役所のOBなどを余分に抱えて収益性を悪くしているのではないか、などという疑問もある。
 従って、仮に売却処分をするにせよ、もっと従業員の整理などを含めて、効率的な運営を進め、収益性を高めた上で、適正売却価格を算定すべきではないか、と思う。
 かんぽの宿の宿泊料なども他の旅館やホテルに較べておおむね安いことも民業圧迫といわれる原因となっていたので、員外利用が少なくないことも勘案して、宿泊料などの料金も引き上げれば、収益性を高めることもできると思っている。
 そもそもJR、JT、NTTや厚生年金の病院、会館などは、それぞれ従業員や会員のための施設として設置されていたか、実際は員外利用が多くなり、従業員や会員の利用はほんの一部に限られている、といった実態が、その値段の低廉なのと相俟って民業圧迫の批判を招いている。
 近時の行政改革に際して、これらの施設を対象として、主として自民党サイドから強く改革を迫られていたのは、従業員や会員の利用率が低い上に大なり小なり赤字経営が多く、事業の設置主体からの損失補てんが行われていたからである。従業員や会員だけのための施設となっていれば多少の赤字になっても、福利厚生施設としての存在意義を認められるし、周辺の民営施設からの反発も少なかったろうと思う。
 ただ、病院などは、今となっては、地域の一般住民の施設として重宝がられているために、設置当初の目的から逸脱しているにしても、そう簡単に止めたり、利用制限をしたりは出来難いという実情も認めなければならない。
 ただし、そこで市中一般の病院なみの料金をとり、赤字を出さないように経営して行くとなれば、又、相当料金を引上げざるをえなくなる。それならば、それこそ設置の意義が乏しくなり、民間に払い下げるなり、何なりと処分を迫られざるをえなくなるのではないか。
 翻って、地方公共団体が公営の形で運営している電車、バス、病院、診療所、水道、ガスなどの企業が、あらかた赤字を出していて、それが地方議会でも問題として採り上げられて久しい。
 しかしながら、右に引例したような公営企業を廃止することもできないとなれば、赤字補てんも地方自治体としては住民福祉のためには止むを得ないと見てもいいのではないか。
 と言って野放図に赤字補てんを認めるわけにはゆかない。そこで、当面、企業の合理化を徹底的に追求すると同時に、それでもなお、発生する赤字については、一定規模の範囲において、赤字補てんを正々堂々と認めたらいいかと思う。読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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