back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2010.10.04リリース

第八十回 <「領土とは」>
 ついこの間、浅田次郎の「終らざる夏」(上下2巻)を読んだ。昭和20年8月15日日本軍の降伏で戦争は終ったというのにソ連軍の猛攻を受けて多大の犠牲者を出し、又、酷寒の地シベリアに送られ、強制労働に服した千島占守島の日本守備隊の物語りである。
 北朝鮮に駐屯していて同じような運命を辿り、北緯55度のラーゲルで3年近くの抑留生活を過した私も読みながら思わず涙する場面もあった。
 私がいたタタアル共和国のエラブガの将校ラーゲルにも北千島から運ばれた将校がいたが、北千島での戦闘の模様は浅田次郎のこの本で詳しく知ることができた。関東軍の戦車部隊を含む精鋭一個師団が予想した米軍とは終戦まで何等戦うこともなく、輸送手段のないままに北千島にいわば取り残されていたのは、計らざる戦略のミスによったにしても、戦争が終ってから領土を狙って侵入してきたソ連軍と戦うことになろうとは運命の皮肉ではなかったか。
 ソ連は明らかに領土を狙って来たに違いなかった。アリューシャン列島の先のアラスカを睨み、遠く米本土を埒め、カムチャッカ半島の南端の目と鼻の先にあって、太平洋への出口を扼する北千島の戦略的価値が高いことは言うまでもない。
 北海道の割讓の目論みを米国に阻止されたというソ連が北千島に異常な執着を持っていたという。
 かつて、ツアーの時代600万ドルでアラスカを米国に売ったロシアが革命によってソ連となってから、中国などとも領土の境界をめぐって激しい紛争を繰り返して来た事実がある。
 樺太・千島の交換条約(サンクトペテルブルク条約)によって日本に帰属した千島列島全体が正式に日本の領土であるのだから、そもそもことは北方四島の返還問題ではなく、千島列島全部が沖縄の如く、日本に返還されて然るべきものであった。
 それが、しかも昭和31年の日ソ共同宣言において、四島のうちハボマイ、シコタンの二島を日ソ間の平和条約締結の際、日本に引き渡すことをその第6項に記すことになった。クナシリ、エトロフについては何等の言及もない。そこで、日本は記載のない二島を含めて四島の一括返還を主張し続けて来ているが、ソ連側は時に領土問題はそもそもなくなったのだと言ってみたり、共同宣言の二島を返還するか、しないかの問題で、クナシリ、エトロフの返還など問題にならない、という態度をとっている。
 竹島についてもまことに口惜しい思いをしている。竹島は歴史的に見ても明らかに日本の領土であるにも拘わらず、戦後韓国に実効支配されて今日に到っている。沿岸3里が12海里に拡げられた際、当時私は、自由民主党の広報副委員長をしていたが、委員長と韓国に行き、崔国務総理に表敬訪問をした地元、竹島問題を採り上げ1時間余りにわたるやりとりとなったが、その後、事実上日本漁船の自由操業を黙認する言質があったのに拘わらず、韓国漁民の強い反対にあって、実現に至らなかった思い出がある。
 韓国は竹島を取り戻したことが独立の表徴であるかのごとき執着を持っていたが、韓国側が実効支配をしている現在、どのようにして日本の領土であることを現実に表明しうるか、悩むところである。しかし、この現代の世界において不条理な実力行使が認められてはならないのは言うまでもない。
 過日、尖閣諸島において不法に操業する中国漁船拿捕の問題について民主党政府の取扱いに甚だしい不満と不安を覚えざるをえなかった。
 沿岸を犯しているのみか、警告を発している海上保安庁の巡視船に体当たりをして損傷を与えるような不法な行動は許されてはならない。船員を何故直ぐ帰国させたか、拘禁した船長を何故一転釈放したが、疑問だらけである。政府は那覇検察当局の判断による処置だと称しているが、恐らくそれを信じている国民はいないと思う。高度の政治判断からの行動を全く不可とは思っていないが、それはそれを表明すべきであって、検察の判断で釈放したかのごとき説明は甚だ妥当でないのみならず、極めて悪い先例となる。今後このような事態が起きた場合の政府はどう対応するのか、沖縄の漁民ならずとも、極めて疑念と不安を感じざるをえないのではないか。
 ことに中国は、尖閣諸島を自国の固有の領土であると表明しているのであって、それを認める日本政府ではなかろうか、優柔不断の態度をとり続けていると、いつか竹島の二の舞にならないという保障はない。
 ここは凡百の利害判断がうごめくことはあっても、譲ってはならない線はきちっと認識して置くことが必要なことは言うまでもない。海上保安庁の巡視船の損傷について賠償を要求するのは当り前ではないか。衝突当時のビデオを公開するの、しないのと今頃議論しているようでは甚だ心もとない。無論直ちに公開し、世界世論の批判を見守るべきである。
 いずれのケースにおいても、もっと日本側は領土問題について強い関心と意思をもって行動すべきであると思うが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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